スポーツ

なぜ、PK戦の順番はキーパーにとって不利なの?

動画公開:

ひとことで言うと

キーパーが不利なのはPK戦の「順番」のせいではなく、ボールが0.2〜0.3秒ほどでゴールに届くため、蹴られる前に方向を予測して跳ぶしかないからです。研究では、読みが当たっても止められたのは3割弱でした。

YouTubeで見る

動画の内容

  1. PK戦のシーンをイメージした落ち着いたイラスト。ゴール前でキッカーとキーパーが向き合う構図

    サッカーのPK戦、実はキッカーよりキーパーの方が圧倒的に不利だって知っていましたか?

  2. ボールがゴールに向かって飛ぶ軌道を示す図解イラスト

    ボールがキーパーに届くまでの時間はおよそ0.3秒。人が反応して動くには短すぎる速さなんです。

  3. キーパーが左右どちらかにジャンプする様子を示すイラスト

    だからキーパーは、ボールが蹴られる前の助走や体の向きから、左右どちらに跳ぶか予測して先に動いているんです。

  4. 確率を示すシンプルな円グラフ風イラスト

    実際のデータでも、キーパーが正しい方向に跳んでも止められる確率は3割ほど。読みが外れれば、ほぼ防げません。

  5. 落ち着いたトーンでスタジアム全体を俯瞰する夕景イラスト

    PK戦は運任せに見えて、実はキーパーの読みと反応速度の限界が生んだ、科学的にも不利なルールだったんです。

もう少し詳しく

ボールは0.2〜0.3秒でゴールに届く

PKでは、キーパーはボールが蹴られるまで、キッカーのほうを向いてゴールライン上に立っていなければなりません。競技規則(IFABの第14条)は、蹴られた瞬間に少なくとも片足の一部がゴールラインに触れているか、ラインの真上か後ろにあることを求めています。前に飛び出して距離をつめることはできないのです。

キーパーの判断を調べたバー=エリらの論文は、ペナルティーマークからゴールまでボールが届く時間を「わずか0.2〜0.3秒ほど」と、先行研究をもとに紹介しています。動画の「およそ0.3秒」はこの範囲に入っています。ただし、実際の時間はキックの速さによって変わります。

イギリスの研究者による別の論文も、PKではボールが速すぎて、キーパーはボールの動きを見てから反応できないことが多く、方向を予測して先に跳ぶしかない、と説明しています。

キーパーは蹴られる前に動いている

ワールドカップや欧州チャンピオンズリーグなどのPK戦330本を調べた研究では、キーパーが動き始めたのは平均でボールが蹴られる0.22秒前でした。キーパーは、ボールの行き先を見る前に跳び始めているわけです。

手がかりになるのは、キッカーの助走や体の向き、軸足(蹴らないほうの足)の置き方などです。オランダの研究では、上手なキーパーほど、キッカーの軸足がボールの横に着くタイミングに合わせて跳び始めていました。

ただ、この「読み」はかんたんではありません。上の330本を調べた研究では、サッカー経験のない人からプロまで700人以上にPKの映像を見せ、蹴る0.4秒前で映像を止めて左右を当ててもらいました。正解率は55〜64%で、当てずっぽう(50%)より少しよい程度でした。

読みが当たっても止められるのは3割弱

バー=エリらは、世界のトップリーグなどのPK286本(ゴールの枠に飛ばなかったキックは除く)を分析しました。ゴールを左・中央・右に分けて調べると、次のような結果でした。

  • キーパーが跳んだ方向とボールの方向が同じとき、止められたのは左で29.6%、右で25.4%。
  • 逆の方向に跳んだときに止めた例は0%。
  • すべてのキックのうち、止めたのは14.7%。

動画では「正しい方向に跳んでも止められるのは3割ほど」と紹介しましたが、このデータでは正確には3割弱です。「読みが外れればほぼ防げない」という点は、データとも合っています。

この研究には、もう一つ面白い結果があります。キーパーは9割以上のキックで左右どちらかに跳んでいましたが、中央にとどまったときに止めた割合は33.3%で、跳んだときより高かったのです。ただし中央にとどまった例は18本と少数です。論文は、キーパーが「動かずに決められる」ことを避けたい気持ちから、必要以上に跳んでいる(アクション・バイアス=行動したくなるかたより)可能性を指摘しています。

なお、動画の最後で「科学的にも不利なルール」と紹介しましたが、不利さはルールそのものというより、距離とボールの速さ、人の反応の限界が組み合わさって生まれるものと考えるのがよさそうです。キッカーのほうも重圧と戦っていて、大きな大会のPK戦409本を調べた研究では、大事な場面のキックほど決まりにくい傾向が見られました。

「順番」の不利は、キーパーではなく後攻チームの話

タイトルの「順番」にも触れておきます。競技規則第10条では、PK戦はコイントスに勝ったチームが先に蹴るか後に蹴るかを選び、両チームが交互に5本ずつ蹴ります。

2010年、経済学者のアペステギアとパラシオス=ウエルタは、129のPK戦を調べて、先に蹴ったチームの勝率が後のチームより21ポイントほど高い(およそ6割)と発表しました。後攻は「外したら負け」という重圧を受けやすい、という考え方です。IFABも2017年、「先に蹴るチームが有利だという証拠がある」として、先に蹴るチームを「A・B・B・A…」と入れ替える方式(ABBA方式)の試行を呼びかけました。

しかしその後、コッハーらが対象を540のPK戦に広げて調べ直すと、先攻の有利ははっきりとは確認できませんでした。IFABも2018年11月の会議で、ABBA方式は手順が複雑で強い支持がないとして、今後の選択肢にしないことを決めています。

ここで話題になっている「順番の不利」は後に蹴るチームの話で、キーパーの不利とは別のものです。動画の中身は、順番ではなく「ボールの速さとキーパーの予測」の話だと受け止めてください。

あわせて読みたい

出典・参考資料

最終確認日: 2026-10-12

内容に誤りを見つけたら、お問い合わせフォームからお知らせください。

あわせて見たい雑学

スポーツの雑学をすべて見る →